
宮水保全条例の基礎知識
開発事業における宮水保全手続きの全体像
手続きが必要となる開発事業とは
西宮市宮水保全条例では、宮水への影響が懸念される一定規模以上の開発事業について、事前の届出と協議を義務付けています。
具体的には以下のような行為が対象です。
- 敷地面積が500平方メートル以上の建築物の建設
- 住戸換算戸数が10戸以上となる集合建築物の建設
- 500平方メートル以上の土地造成
対象となる地域は、条例で指定された「宮水保全対象区域」に限られます。区域外での開発であれば、特別な手続きは必要ありません。
事前協議・届出が義務付けられる理由
宮水は、地層のわずかな変化によっても流れが変わったり、水質が変化するほど繊細な存在です。
開発による地面の掘削、振動、地下水流の遮断は、不可逆的な影響をもたらす恐れがあります。
そのため、建築確認申請や開発許可申請を出す前に、まず宮水保存調査会との協議を行い、影響を最小限に抑える方法を事前に確認する必要があるのです。
手続きの具体的な流れ
1.事業計画の作成と影響確認
開発を計画する事業主は、まず自らの開発行為が宮水に与える影響を予測しなければなりません。
この段階では、敷地の地質調査や、地下水位、周辺環境への影響可能性を事前に把握しておくことが重要です。
2.宮水保存調査会との事前協議
影響評価が完了したら、次に宮水保存調査会(灘五郷酒造組合が中心となる専門団体)と協議を行います。
協議では、開発方法や工事計画の説明を行い、必要に応じて以下のような指導を受けることになります。
- 掘削方法の変更
- 地下構造物の設置位置変更
- 工事期間の制限設定
調査会から求められる修正に応じることが、スムーズな手続きの鍵となります。
3.協議結果の市長報告
協議が終了したら、速やかに「保全対象区域における開発事業協議報告書(様式2)」を作成し、西宮市長へ提出します。
この報告書が受理されることで、初めて建築確認申請や開発許可申請を提出することが可能になります。
4.建築確認・開発許可申請の提出
事前協議・届出が完了していれば、通常の建築確認や開発許可申請に進めます。
逆に、届出・協議を怠った場合は、この時点で行政指導が入り、計画が停止されるリスクがあります。
使用する届出書類とその書き方のポイント
届出書(様式1)の基本構成と注意点
届出書(様式1)には以下の項目を記載します。
- 事業主情報(個人または法人)
- 事業場所(住所、地番)
- 開発概要(面積、建物用途)
- 影響予測と対策案(簡潔でよいが明確に)
注意すべきポイントは、「開発概要」を正確に記載することです。後から規模変更があった場合は、再協議が必要になるケースもあるため、初期段階で計画をしっかり固めておきましょう。
協議報告書(様式2)の記載例と注意点
協議報告書(様式2)には以下の情報を記載します。
- 協議を実施した日付
- 協議先(宮水保存調査会小委員会)
- 協議内容(概要でよいが、重要な合意事項は明記)
- 協議結果(了承、条件付き了承など)
ここでは、協議の結果が正確に記録されていることが最も重要です。
特に条件付き合意となった場合、その条件に沿った工事を行わなければ、後日トラブルのもとになります。
協議が必要な場合・不要な場合の具体例
協議が必要な代表例
- 共同住宅の新築(戸数10以上)
- 大型店舗、オフィスビルの建築
- 敷地拡張を伴う工場増設
- 500平方メートルを超える土地造成工事
これらはほぼ確実に届出・協議が必要です。
協議が不要な代表例
- 個人宅(戸建住宅)一戸建ての新築
- 軽微な増築(増床面積が1,000平方メートル未満)
- 内装リフォームのみで外構工事を伴わない場合
ただし、境界ぎりぎりの掘削や、地下を掘る工事がある場合は、念のため事前相談することを推奨します。
スムーズに手続きを進めるためのコツ
計画初期段階での影響評価の重要性
後から協議の手戻りが発生すると、プロジェクト全体の遅延リスクが高まります。
必ず計画初期の段階で、地下水脈や地盤に対する影響可能性を洗い出しておくことが重要です。
保存調査会との信頼関係構築のすすめ
宮水保存調査会は単なる審査機関ではなく、「宮水を守るためのパートナー」です。
誠実な情報提供と、事前の相談姿勢を持つことで、円滑な協議が可能になります。
市担当窓口との事前相談のメリット
西宮市役所の商工課(都市ブランド発信担当)に事前相談を行うと、手続き全体の流れがより明確になります。
疑問点や不明点がある場合は、早めに相談することで、無用なトラブルを防ぐことができます。
手続き漏れ・違反が招くリスクとは
是正勧告・工事中止のリスク
届出や協議を怠った場合、条例に基づき是正勧告を受けることになります。
勧告に従わない場合は、開発行為の中止命令や、最悪の場合、損害賠償請求を受ける可能性もあります。
地域社会・企業ブランドへの悪影響
宮水保全に対する社会的関心は年々高まっています。
違反事例が公になれば、企業や事業主に対する信頼失墜や、地域コミュニティからの反発を招きかねません。
「ルールを守る」という姿勢そのものが、企業の社会的信用を支えるのです。
まとめ:宮水を守る開発は「責任ある未来づくり」
宮水を守る手続きは、単なる行政手続きではありません。
それは、地域資源を未来へつなぐための「責任ある開発」の第一歩です。
開発行為に関わるすべての人が、宮水の価値を理解し、ルールを遵守することで、西宮の誇りを次世代へ受け継いでいきましょう。