
宮水保全条例の基礎知識
宮水保全対象区域とは何か
対象区域の指定基準
宮水保全条例では、単に西宮市全体を保護対象にしているわけではありません。条例に基づき、西宮市長が指定した「宮水保全対象区域」が定められており、ここでの開発行為に対して特別な手続きが求められます。
指定基準は、宮水の流れる浅層地下水層に直接影響を与える可能性が高い地域であることです。地層の特性や地下水の流向、過去の水脈調査結果などをもとに、科学的根拠に基づいて指定されています。
なぜこの区域が選ばれたのか
宮水はごく限られた地域でしか得られない、きわめて貴重な水資源です。西宮神社の南東側一帯を中心とする特定のエリア──久保町、石在町、今津地区など──は、古代から堆積した砂礫層の中に宮水を涵養する地下水脈を有しています。
このため、都市開発などにより地層を乱した場合、宮水の水質・水量が直接的に損なわれるリスクが高いため、慎重な保全が求められたのです。
宮水保全対象区域の全体マップ
地図上で見る保全対象エリア
宮水保全対象区域は、西宮市の中心部から南部沿岸にかけて広がる帯状地域に集中しています。具体的には、阪神本線沿線から国道43号線付近を中心に、周辺の住宅地・商業地・工業地帯が含まれています。
このエリアは、表層が比較的低地で地下水位が高く、しかも古代の河川・海岸堆積層が混在しているため、宮水の自然涵養に極めて重要な役割を果たしています。
地形・地質からみた区域特性
宮水区域は基本的に以下のような特徴を持っています。
- 地盤が比較的緩く浅い層に水脈が存在
- 過去に河川や海岸だった地形で、ミネラルが豊富
- 人工排水による地下水流の変化が起きやすい地域
このため、わずかな開発行為でも水脈にダメージを与える可能性があり、慎重な管理が不可欠です。
宮水保全対象町名リスト
西宮市内で指定されている町名一覧
【代表的な指定町名(抜粋)】
- 久保町
- 石在町
- 今津地区(曙町・社前町・山中町 など)
- 浜町
- 城ヶ堀町
- 分銅町
- 甲子園口地区の一部
- 津門地区(大塚町・大箇町・稲荷町など)
- 東町1丁目、2丁目
など、合計80町以上にわたります。
町ごとに、名神高速道路、国道43号線、津門大筒線など主要道路による区分も考慮され、区域が細かく設定されています。
町名別の地形・水脈特徴解説(ポイント要約)
- 久保町・石在町:宮水の湧出量が最も多いとされる中核地域。特に浅層地下水の質が高い。
- 今津地区:住宅地と商業施設が混在し、開発リスクが高まっている区域。注意が必要。
- 甲子園口地区:交通インフラ整備の影響を受けやすく、地下水環境が変動しやすい。
- 浜町・分銅町:かつての海岸線に近く、地層変化による影響に注意が必要。
このように、町名ごとに地下水環境やリスク度合いが異なっているため、一律の対策ではなく、地域特性に応じた柔軟な保全が求められています。
エリア別・宮水への影響リスクと特徴
低地エリア(地下水脈に近い地域)
地盤が低い地域では、宮水脈と地表との距離が近く、開発行為による振動や圧力変化が直接的に影響します。掘削工事や地盤改良などは、特に慎重な対応が必要です。
住宅密集エリア(開発リスク高い地域)
すでに住宅が密集している地区では、建て替えや集合住宅建設に伴う掘削工事が頻繁に発生するため、局所的な水脈破壊リスクが高まっています。個別案件ごとの影響評価が重要です。
工業・商業エリア(開発圧力の強い地域)
工場、倉庫、大型店舗などが立地する地域では、大規模開発に伴う地層改変リスクが常に存在します。重機使用による地盤振動、地下構造物建設による水流阻害など、複合的な影響が考慮されるべきです。
区域指定の現状と今後の見直し可能性
指定解除・区域拡大の条件
宮水保全対象区域は、一定条件を満たした場合に限り、市長の判断で指定を解除・変更・拡大できることが定められています。たとえば、地質調査により影響がないと確認された場合、区域解除の可能性もあります。一方で、新たにリスクが判明すれば、対象エリアを拡張する必要も出てきます。
未来に向けた柔軟な運用の必要性
都市開発と地域資源保全は、常にバランスを取りながら進めなければなりません。将来的には、宮水への間接的影響も含めたより広域な保護政策が求められる可能性があります。
また、モニタリング技術の進化により、地下水流動の可視化が進めば、より科学的根拠に基づく区域見直しが実現できるでしょう。
まとめ:地域を知り、宮水を守るために
宮水保全対象区域は、西宮市の誇る「奇跡の地下水」を未来へ引き継ぐための最前線です。
対象地域に住む私たち一人ひとりが、宮水という目に見えない資源を守る意識を持ち、開発と自然の共存を考えることが求められています。
町の名前を知るだけでなく、その下に広がる「目には見えない宮水の世界」へ思いを馳せること──それが本当の保全活動の第一歩です。