
■ はじめに
「補償金が付いている土地はお得」と考える方は少なくありません。
しかし現実には、「補償金の権利を誰が持っているのか」「土地の用途に制限が残るのか」「売買後の名義変更がなされていない」といった問題でトラブルに発展するケースが後を絶ちません。
補償契約がある土地の売買や相続には、通常の取引とは異なる確認ポイントが存在します。本記事では、その注意点と実務的な対応策を体系的に解説します。
■ 補償付き土地の基本構造
線下補償付き土地とは、以下のような特徴を持った不動産です:
・送電線や鉄道架線の真下にあることで、建築や農作物栽培に制限がある
・それに対する補償金が支払われている
・一時金か年額か、地役権の有無、契約期間の有無など、契約の形が多様
土地としての資産価値は「制限がある」ため下がる一方で、「補償収入がある」というメリットも存在する、いわばプラスとマイナスが混在した特殊不動産です。
■ 売買時の確認ポイント
補償付き土地を売買する際には、以下の点を必ず確認してください:
● 補償契約書の有無
・契約の存在が不明確なまま売買すると、後で「補償金は誰のものか」を巡ってトラブルになりやすい
・旧契約が紙ベースで残っていないケースも多く、できる限り事前に確認を取る
● 契約内容の確認
・一時金契約であれば補償の支払いは完了している可能性が高い
・年額払いの場合、補償を引き継げるか、契約名義の変更が必要かを事業者に確認する必要あり
● 登記の確認
・地役権が登記されている場合、その情報は登記簿謄本(乙区)に記載されている
・将来的な用途制限が明文化されているケースでは、建物が建てられないリスクもある
● 重要事項説明書への記載
・不動産業者が仲介する場合、「補償契約の存在と内容」は重要事項説明の対象です
・記載漏れは損害賠償請求につながることも
■ 相続時の注意点
相続により補償付き土地を引き継ぐ場合、以下の問題が起こり得ます:
● 名義変更をしていない
・補償金が引き続き故人名義の口座に振り込まれている
・事業者からの通知が届かず、契約更新の機会を失う
● 相続人間のトラブル
・補償金の受け取りをめぐって、誰が管理するかが曖昧なまま分割協議が進んでしまう
・「土地は長男、補償金は次男」という取り決めを口頭で行い、後から争いになることも
● 評価方法の判断
・相続税の財産評価において、補償金の存在をどう扱うかで揉める
・補償が年額なら収益還元法、地役権設定なら一時金評価の実例もあり、不動産鑑定士の評価が求められる場面もある
■ 価格評価と広告表現の落とし穴
補償金があるからといって、土地の価値が必ずしも高いわけではありません。
・建築制限がある場合、住宅用地としての価格は大きく減額される
・農地・山林であっても、送電線の存在が心理的瑕疵と判断されるケースもあり、買い手が付きづらい
・「補償付きでお得」とアピールする広告表現は、実態と異なると誤認表示になるリスクも
また、広告や価格査定の段階で「補償金込みで利回り良好」などと記載した場合、固定資産評価との乖離や投資判断に影響するため、慎重な言葉選びが必要です。
■ 実務で起きがちなトラブル例
・買主が補償金の存在を知らされず、契約後に旧所有者に支払われ続けていた
・補償金の更新交渉時期を過ぎてしまい、契約が打ち切られた
・売買契約で補償金の取り扱いについて特約がなかったため、解釈を巡って係争に発展
■ 対応策と事前準備
● 契約書と支払明細の確認・保管
● 所有者名義の変更(登記・事業者への届出)
● 専門家(司法書士・不動産鑑定士・行政書士)への相談
● 重要事項説明書における記載ルールの事前確認
● 売買契約書への補償金引継ぎに関する明記(特約条項)
このように、補償付き土地の取引・相続には一般的な不動産と異なる複雑な背景があり、
「補償金がある=得する」と考えるのは危険です。むしろ、リスクと制限を正しく把握した上での慎重な運用が求められます。