

更新料はいくらが妥当か。地主の提示額は高いのか安いのか。多くの方が最初につまずくのが「計算の根拠」です。
本記事では、更新料の基本的な考え方と具体的な計算手順、数字を使った試算例、よくある落とし穴まで、初めての方でも迷わないように丁寧に解説します。
借地権更新料は法律の義務ではない
まず大前提として、借地借家法に「更新料」の規定は存在しません。したがって、更新料の支払いは法律で義務づけられたものではなく、契約条項・当事者の合意・地域慣行・過去の支払実績などに基づいて定まるものです。
裁判例でも「更新料条項が法定更新に及ぶか」は争点となっており、一般には「合意更新の場合のみ有効」と解する傾向が強い一方で、文言や経緯次第で法定更新にも及ぶと判断した例もあります。契約条項の文言精査が極めて重要です。
借地権更新料の基本式(まず“型”を押さえる)
実務上、更新料は次の“型”で検討されるのが一般的です。
更新料 ≒ 借地権価格 × 5〜10%(事案により3〜10%幅)
ここでいう借地権価格は、対象土地の時価に借地権割合を掛けて求める値です。ただし、これはあくまで実務目安であって法定の算式ではありません。地域・契約内容・個別事情(地代の水準、残存期間、建物状況、過去の承諾料の有無など)で上下します。
借地権価格の求め方(3ステップ)
● 対象土地の価格を把握
- 実務では「時価(近隣の成約相場や査定)」「不動産鑑定評価」「公示地価」「固定資産税評価」など複数指標を参照。
- 机上計算の簡便法として、まずは路線価×地積から目安を置くこともあります。
● 借地権割合を確認
- 国税庁の路線価図では、借地権割合がアルファベット(A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%)で表示されています。
● 計算
- 借地権価格=土地価格 × 借地権割合
- 更新料目安=借地権価格 × 5〜10%
※同じエリアでも街路・角地・奥行補正、形状などで差が生じます。現地事情は必ず加味してください。
具体例でわかる計算(大阪市・東京の比較)
例1:大阪市の住宅地(概算例)
- 土地時価の目安:3,000万円
- 借地権割合:60%
- 借地権価格=3,000万円 × 0.6 = 1,800万円
- 更新料目安(5〜10%)=1,800万円 × 0.05〜0.10 = 90〜180万円
例2:東京23区の住宅地(概算例)
- 土地時価の目安:6,000万円
- 借地権割合:70%
- 借地権価格=6,000万円 × 0.7 = 4,200万円
- 更新料目安(5〜10%)=4,200万円 × 0.05〜0.10 = 210〜420万円
ポイント
- 「5〜10%」は実務上よく使われる目安であり、絶対値ではありません。
- 地代の水準や過去の増改築承諾、残存期間、契約種別(普通/定期)等により上下します。
- 個別に査定し、根拠をそろえて地主側と協議することで適正化が図れます。
普通借地と定期借地での考え方の違い
● 普通借地
- 更新が前提の設計。更新料のやり取りが生じやすい。
● 定期借地
- 「更新なし」が制度趣旨。更新料の問題は原則生じません。
- ただし、再契約・再設定時には一時金など別の金銭論点が出ることがあります。
※契約書の更新条項が最優先です。必ず確認してください。
よくある誤解・落とし穴
- 固定資産税評価額そのままで計算してしまう
→ 実務の更新料は「時価ベース×借地権割合」から考えます。評価額は参考指標の一つにすぎません。 - 借地権割合が見当違い
→ エリアによって大きく異なります。国税庁路線価図の最新情報を必ず確認。 - 過去の合意事項を無視
→ 過去の更新料支払、増改築承諾、地代改定の経緯は交渉材料になります。書面・覚書を整理しておきましょう。 - 法定更新にも一律に更新料が必要と誤解する
→ 法定更新に更新料条項が及ぶかは契約文言次第。裁判例の多くは否定的ですが、例外判断もあるため注意。
交渉の現場で効く“根拠のそろえ方”
- 近隣の土地成約事例、査定書(複数社)
- 借地権割合、路線価、地代水準の客観データ
- 建物の現況調書(老朽度、増改築履歴)
- 過去の合意書面、領収書(更新料・承諾料・地代改定の履歴)
→ 感覚論ではなく「根拠資料の束」で臨むと、地主の過大な金額主張を抑えやすくなります。
計算方法に関するFAQ
Q. 更新料は必ず「5〜10%」ですか?
A. あくまで実務の目安です。契約条項、地代、残存期間、地域相場、承諾履歴などで幅は変わります。
Q. 借地権割合はどこで調べますか?
A. 国税庁の路線価図で確認できます。迷う場合は不動産会社や士業に相談を。
Q. 地主の提示額が高いと感じます。どうすべき?
A. まずは「時価×借地権割合」で根拠額を算出し、資料を添えて協議。それでも溝が大きければ専門家を同席させてください。
Q. 更新料は経費になりますか?
A. 個別事情で取扱いが変わります。税務上の判断が必要なため、顧問税理士等に確認を。