覚書のメリット・デメリット(越境・撤去・分筆の補助ガイド)

覚書のメリット・デメリット(越境・撤去・分筆の補助ガイド)

越境物トラブルの現場では、撤去がすぐ決まらない、分筆に時間がかかる、売買を止めたくない――そんな「間」を安全に渡るための橋が覚書です。本稿は親コンテンツ「隣接地からの越境物|トラブルを防ぐ完全ガイド」の補助資料として、実務で迷わない範囲に絞って解説します。想定読者は、売買・賃貸の現場担当者、オーナー、仲介事業者です。

覚書とは

当事者間の合意事項を簡潔に文書化したものです。契約書ほど重厚な条項体系を持たない一方、日時・当事者・対象・合意内容が明確なら、後日の紛争予防に有効です。登記や第三者対抗要件を直接は生みませんが、実務判断と交渉の土台になります。

メリット

  1. 争点の明確化

    対象物(枝・塀・基礎など)、位置、範囲、実施時期、費用負担を可視化し、後戻りを減らします。

  2. 取引の継続性

    撤去前でも、引渡条件・期限・代替策(剪定・補修)を定めれば、売買や融資説明を止めずに進めやすくなります。

  3. 再発対応のルール化

    剪定周期、立会い、記録方法、再越境時の是正期限まで決めることで、感情的な対立を回避できます。

デメリット/限界

  1. 拘束力の範囲

    登記に直結しないため、第三者(新所有者・相続人)への対抗力は限定的です。承継条項の工夫が必須です。

  2. 曖昧表現リスク

    「必要に応じ」「適宜」などは解釈ブレの温床になります。数量・寸法・座標・写真添付で具体化しましょう。

  3. 空白時間の発生

    期限や不履行時措置がない覚書は「約束止まり」になりがちです。違約時の是正手順・費用負担・連絡期限を必ず規定します。

作成時の必須項目

  • 当事者と物件特定(住所・地番・関係者)
  • 対象物の特定(位置図・写真・寸法)
  • 実施内容と期限(撤去/剪定/補修/一時使用)
  • 費用負担と支払方法(全額/按分/立替精算)
  • 立会い・記録(日時、撮影、成果物の保管先)
  • 再発時の対応(通知→是正期限→代執行可否と費用)
  • 承継・有効期間(所有権移転・相続時の扱い)
  • 紛争解決(協議→調停→管轄)

よくある失敗例

  • 対象位置が特定できず、「どこまでやるのか」で紛糾する
  • 写真・図面がなく、現場担当が変わるたびに認識が崩れる
  • 承継条項がなく、売買後に「そんな約束は知らない」と破綻する
  • 期限だけ決めて、不履行時の手順と費用を未設定のままにする

使い分けの目安

  • 撤去が確定しているが時期が先:期限・代替策・違約条項を強めた覚書にする
  • 撤去せず存置で合意:使用承諾・維持管理・責任境界を詳細化する
  • 分筆と併用:確定測量の成果物を添付し、越境部分と残地の関係を明文化する

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まとめ

覚書は「いま決められる最小限」を確実に残す実務ツールです。登記に代わる万能鍵ではありませんが、対象の特定・期限・費用・再発条項・承継の五点を押さえれば、撤去・分筆・売買の橋渡しとして強力に機能します。次は「確定測量の基礎知識」で、覚書に添付すべき成果物と前提工程を確認しましょう。

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